マインドアップロードは、
どこまで来て、いま何をすべきか。
マインドアップロード=全脳エミュレーション(WBE: Whole Brain Emulation)は、特定の脳の構造と状態を計測し、 その情報処理を計算機上で再現する構想です。本サイトは、SFでも宣伝でもなく、一次文献にもとづく教科書として、 この分野の 歴史 / 科学的基礎 / 現在地 / 未来予測 / 哲学・倫理 / 行動指針 を一か所に統合します。 事実・推定・思弁を明示的に区別するのが本サイトの方針です。
Progress Dashboard / 現在地の要約
6つの軸で測る「どこまで来たか」。
WBEは単一の発明ではなく、保存 → 地図化 → 読み出し → 動かす → 計算 → 検証 という依存パイプラインです。 以下は各軸の到達点の要約(詳細と根拠は第3章)。 バーは体積や性能の比率ではなく、「ヒト1人ぶんを実現するまでの道のり」に対する編集上の定性評価です。
線虫・ハエ幼虫・ハエ成虫(13.9万ニューロン)・雄ハエ中枢神経系(16.7万)は全地図が完成。マウスは1mm³(全体の約0.2%)とヒト皮質1mm³まで。マウス全脳とゼブラフィッシュが進行中。
Neuropixelsで数千点同時記録、ゼブラフィッシュ幼生では約7万ニューロンの全脳活動記録を達成。ヒトでは発話BCIが会話速度に到達し、埋め込み患者は累計数十人規模に。全脳・全ニューロンの読み出しは小型脳のみ。
2024年にハエ全脳のスパイキングモデルが実験と整合する応答を再現、2026年には仮想身体と結合し歩行・グルーミングが創発(Eon Systems)。ただし学習・可塑性・神経修飾は未実装で、線虫ですら「完全な再現」は未達成。
アルデヒド安定化低温保存(ASC)が大型哺乳類の全脳で微細構造を保持。2026年には医師幇助死と適合するヒト適用可能プロトコルの前刷りが公開。ただし「保存した脳から情報を読み出して復元する」ことは未実証。
スパコンは10¹⁸ FLOPS(エクサ級)に到達し、2008年ロードマップが見積もったスパイキングレベルの理論所要量の桁に入った。ネックは演算よりメモリと帯域、そして全脳スキャンデータ(ヒトで推定1〜2ゼタバイト)の処理。
「エミュレーションが正しい」ことを示す標準はまだない。ゼブラフィッシュの活動予測ベンチマーク(ZAPBench)など萌芽はあるが、同一性・意識の検証は理論自体が未決着(IIT対GNWTの対決実験は両理論に課題を突きつけた)。
生物のはしご — シナプス解像度の全脳地図
※ バーは各生物の全脳に対する構造地図の完成度。詳しい根拠・数値は第3章 現在地へ。
Recent Developments / 直近12ヶ月の動き
この1年で何が起きたか。
ハエ全脳エミュレーションが「身体」を得た
Eon SystemsがFlyWireコネクトーム(13.9万ニューロン)を物理シミュレーション身体と結合。訓練なしで歩行・グルーミング等の行動が創発する初の「身体化された全脳エミュレーション」を実証。
ヒト適用可能な全脳保存プロトコル
Nectomeがブタ全脳をシナプス解像度で保存し、医師幇助死(オレゴン州で合法)と適合する手順の前刷りを公開。ヒト脳保存の臨床運用が現実の論点になった。
State of Brain Emulation Report 2025
2008年ロードマップ以来の包括的再評価が公開。記録・地図化・エミュレーションの3能力で進捗を整理し、ヒトWBEはどれだけ楽観的でも数十年先と結論。
雄バエの中枢神経系まるごと地図
Janelia等が脳+腹側神経索あわせて16.7万ニューロンの完全コネクトームを公開。首の接続が保たれた初の「脳と脊髄相当を通した」配線図で、雌雄差の解析も可能に。
マウス皮質1mm³の構造+機能、そしてデジタルツイン
MICrONSが20万細胞・5億シナプスの構造と7万超ニューロンの活動を統合したデータをNature特集で発表。同時期にStanford等が視覚野の応答を予測する「基盤モデル型デジタルツイン」を実証。
読み出しと資金の動き
Neuralinkの埋め込みは26人に到達(2026年6月)し量産準備へ。米BRAIN Initiative予算はピーク比半減から一転、FY2026は33%増。ゼブラフィッシュ全脳コネクトームの公開も近い。
The Textbook / 教科書の章立て
7つの章と1つの別冊。
はじめての人は第1章から順に。研究動向だけ知りたい人は第3章へ。意思決定をしたい人は第6章へ。
歴史 1929→2026
思想の起源(ベルナール、エッティンガー、モラヴェック)から、線虫コネクトーム、2008年ロードマップ、FlyWire、そして2026年の身体化エミュレーションまで、約100年を1本の年表に。
読む → Chapter 2科学的基礎
脳の基本数値、WBEパイプラインの6段階、「何をどの解像度で写せば十分か」問題、スキャン技術の比較、計算量・データ量の見積もり、主要な科学的反論。
読む → Chapter 3現在地(2026年8月)
6軸それぞれの「達成済み/進行中/未着手」を一次文献つきで定量評価。生物のはしご、主要プロジェクト一覧、正直な全体評価。本サイトの中核章。
読む → Chapter 4未来 — 予測と条件
モラヴェック1988からMetaculus 2070、専門家調査2025まで予測を総覧。前提条件の依存グラフ、加速・減速要因、AGIとの競合関係、観測すべき先行指標。
読む → Chapter 5哲学と倫理
コピーは自分か(人格の同一性)、機械に意識は宿るか(機能主義対IIT)、エミュレーションの福祉・同意・法的地位。技術が成功しても残る問いを整理。
読む → Chapter 6いま何をすべきか
研究者・学生・資金提供者・一般個人それぞれの行動指針。未解決問題リスト、参加できるプロジェクト、脳保存という選択肢の冷静な評価、やるべきでないこと。
読む → Appendix資料集・用語集・FAQ
必読書・重要論文・組織ディレクトリの注釈付きリスト、30語の用語集、よくある12の質問への短答。
読む → 別冊 / Scenarioシナリオ年表 2026→2050
AI 2027形式で「もし順調に進んだら」を年ごとに描く条件付きシナリオ。本編の事実整理と対をなす思考実験。
読む →About / このサイトについて
編集方針。
- 一次文献主義 — 主張には査読論文・公式発表・原典へのリンクを付す。二次報道のみに依拠する場合はそう明記する。
- 事実・推定・思弁の区別 — 実証済みの事実、趨勢からの推定、哲学的思弁を、本文中で常にラベル分けする。楽観にも悲観にも寄らない。
- 定期更新 — 進捗ダッシュボード(第3章)を定点観測として更新し、更新日を明示する。予測が外れたら外れたと書く。
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