線虫から、ヒトへ。
マインドアップロードが
完成する2050年までの年表。
マインドアップロード=全脳エミュレーション(WBE)は、ある脳の構造と状態を計測し、その情報処理を計算機上で再現する構想です。 本ページは AI 2027 にならい、世界中の研究の到達点を起点に、 2026年から2050年の完成までを「年ごとに何が起こりうるか」のシナリオ年表として描きます。実証済みの事実と、そこからの予測を分けて。
Abstract / 要旨
要旨
全脳エミュレーション(WBE)は、Sandberg と Bostrom が2008年に体系化した「スキャン&エミュレート」1という工学問題である。 以後の約20年で、世界の研究は 構造の地図化を線虫(302ニューロン)2からハエ成虫の全脳(約14万ニューロン)7、 ヒト皮質1mm³9まで押し上げ、読み出しは会話速度の発話BCI2123に到達した。
本レビューは、この曲線を外挿し、2026→2050を6フェーズの年表シナリオとして描く—— 地図の自動化 → 哺乳類の全脳 → 走らせる → ヒトへの跳躍 → 個人の再構成 → 完成と分岐。 各フェーズは前を前提に積み上がる。2050年完成は確約ではなく、縮退(再構成の一意性)16、 全脳スケール、同一性の検証という律速段階を越えた場合に成立する 条件付きシナリオであり、 最後は「継続」と「複製問題」に分岐する31。
1. The Exponential / 規模の指数
脳マッピングは、すでに指数で登っている。
シナプス解像度で再構成された脳の最大規模を対数軸で並べると、線虫からヒトまでは 約9桁。 実線は実証済み、点線は本シナリオの予測。完成はこの曲線が天井(ヒト全脳)に届く点として読める。
読み筋: WBE は単一の発明ではなく 固定 → 取得 → 再構成 → 走らせる → 検証 の依存パイプライン。 上の曲線は「取得(地図化)」の軸にすぎず、構造を写し取っても、走らせる動的状態と検証が揃わなければ脳は動かない。 以下の年表は、各年に どの軸が前進し、何が残るか を追う。
2. The Scenario / シナリオ年表
2026 → 2050、6つのフェーズ。
右の年号パネルはスクロールに追従し、いまどのフェーズを読んでいるかを示す。クリックで各フェーズへ移動。
外挿の前に、土台となる事実。これらは 世界中で実際に達成済み。
地図の自動化
AIによる電子顕微鏡再構成の自動化が、配線図づくりのコストを桁で押し下げる。
- 2026
EM再構成がAIで律速解除
フラッドフィリング/Transformer系の自動セグメンテーションが、ペタバイト級EM画像の人手コストを激減させる。FlyWire・H01・MICrONSで実証されたパイプライン7910が標準化し、再構成スループットが取得の主律速でなくなる。
- 2027
マウス全脳プロジェクトの始動
公的(BRAIN Initiative等)と民間の連合が、約7,000万ニューロンの マウス全脳コネクトーム を明確な中間目標に掲げ、全脳EM撮像を開始。1mm³から全脳へ、約3桁のスケールアップに着手。
- 2027
発話BCIが会話速度へ
皮質内発話ニューロプロステーシス212223が日常会話に耐える速度・安定性に達し、複数チームで再現。「神経活動から状態を読む」読み出し能力が臨床標準になる。
- 2028
マウス全脳の撮像完了
全脳EMデータ取得が完了し、自動再構成フェーズへ。分子・細胞型アトラス1112や拡張顕微鏡13との重ね合わせ準備が進む。
最初の哺乳類・全脳
線虫からマウスへ。構造の軸で初めて哺乳類の全脳が閉じる。
- 2030
マウス全脳コネクトーム(初版)
約7,000万ニューロン・約10¹¹シナプスの全配線図ドラフトが公開。線虫→ハエ→マウスの跳躍で、哺乳類の 構造 軸が一段落する。
- 2031
マルチモーダルなマウス脳
配線図に、全脳の細胞型(トランスクリプトミクス)11とNeuropixels級の機能記録19を重ね合わせ。「構造+分子+活動」が同一座標で揃う初の哺乳類データセット。
- 2031
動態のファウンデーションモデル
構造から活動を予測する大規模モデル(“仮想マウス脳”)が、感覚運動回路で機能を再現し始める。Blue Brainの微小回路再構成15がデータ駆動で全脳級へ拡張。
- 2032
臨床グレードの脳保存
ASC由来の手続き17が標準化し、終末期・研究プロトコル下で ヒト全脳 をシナプス解像度で保存する事例が現れる。将来の取得に向けた「原本」の確保が始まる。
走らせる:機能エミュレーション
地図を「動かす」段階。身体ループと、再構成の一意性が主戦場になる。
- 2034
ニューロモルフィックがマウス級を実時間で
Hodgkin-Huxley型の膜電流モデル14を抽象化したスパイキング網を、SpiNNaker系25・Loihi系26・NorthPole系27とエクサスケール計算が、マウス規模で低電力・実時間に走らせる。
- 2035
身体ループを閉じる
領域スケール、続いてマウス全脳の機能エミュレーションが、仮想/ロボット身体の感覚運動ループ24の中で特定行動を再現。脳は孤立では正常動作しないため、身体性が忠実度の条件になる。
- 2036
縮退問題に標準的な答え
「異なるパラメータが同一活動を生む」縮退16に対し、摂動応答+保持データ検証のベンチマークが証明の標準に。多くの“一致”が棄却され、再構成が反証可能になる。
- 2037
合意されたマウス・エミュレーション
行動+摂動の保持テスト群を通過するマウス脳エミュレーションが合意水準に到達。同時に問いが鋭くなる——振る舞いの一致は、内部状態の一致を意味するのか。
ヒトへの跳躍
マウスからヒトへ、さらに3桁。保存された脳から、全脳構造を取得する。
- 2039
ヒト全脳の構造取得
保存ドナー脳から、H01の1mm³断片9を全臓器へスケールしたエクサスケール構造コネクトームが得られ始める。約860億ニューロン・100兆シナプスの地図化に着手。
- 2040
構造からの状態推論が成熟
EM形態から機能的シナプス重み・神経調節状態へ写像する手法が、動態を初期化できる水準に。構造だけでは欠けていた「動的状態」の溝を縮める。
- 2041–42
部分的ヒト・エミュレーション
感覚野・海馬の記憶回路など部分系が、生前の記録や行動データと照合して検証される。全脳ではないが、ヒト回路が初めて「走る」。
- 2043
エミュレーション社会の経済学が政策課題に
Hanson『The Age of Em』31が描いたエミュレーション経済・社会の論点が現実味を帯び、コピー権・労働・人格の統治枠組みの起草が始まる。
個人の再構成
パイプライン全体を、ひとりの個人について通す。
- 2045
パイプラインの統合
固定 → 取得 → 再構成 → 走らせる → 身体化 → 検証 が、特定個人について初めて端から端まで接続される。
- 2046
記憶と人格の再現
全脳ヒト・エミュレーション候補が、ドナー特異的な記憶・性格マーカーを盲検テスト下で再現し始める。
- 2047
同一性検証バッテリの配備
同一性の 連続性 を操作的に試す検証バッテリが運用される。同時に、法的地位・本人同意・コピー問題が現実の政策論点になる。
- 2048
「完成」を操作的に定義
標準化団体が、形而上学的主張とは切り離した 検証バッテリの通過 として「完成」を定義する。
3. The Fork / 2050の分岐
完成の先で、未来は二つに割れる。
技術が成功しても、同一性の問いは技術だけでは閉じない。AI 2027が「競争」と「減速」に分岐したように、ここでは検証の解釈で二つのルートが生まれる。
アップロードは「本人の継続」とみなされる
社会は、検証バッテリが示す 機能的・心理的連続性を同一性の基準として受け入れる。エミュレーションは法的人格を得て、本人の継続として扱われる。破壊的コピーよりも、ニューロンを少しずつ置換していく 段階的アップロード(テセウスの船型)が、連続性を保つ手続きとして好まれる。
論点は「いつ・どの条件で人格が継続するか」へ移り、技術と検証の精緻化が前進を続ける。
アップロードは「後継者の作成」にとどまる
主観的連続性を保証する測定が最後まで現れず、コピー問題が解けない。元の脳が残ったまま複製が走る事例が、両者を「別個の存在」として可視化する。アップロードは生存ではなく 相続人・分身の作成として再定義され、法と倫理は原本と複製を区別する方向に進む。
工学的完成は揺るがないが、「自分が生き延びる手段」という当初の動機づけは満たされない、という結論になる。
4. Why Conditional / 残る壁
2050が「条件付き」である理由。
外挿だけでは越えられない3つの律速。ここが解けなければ、シナリオは前倒しできない。
References / 参考文献
引用研究(31件)。
世界の公開研究から、各軸の代表的到達点を抜粋。2026年以降のマイルストーンはこれらの趨勢からの予測であり、引用は実証済みの土台を示す。各項目は原典または安定した書誌ページへリンクしている。
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