Reference

用語集(Glossary)

まずは“言葉のすり替え”を止める

Mind Uploading Research Project

Open Access Last Updated: 2026-02-10 Living document

How To Use

この用語集は、用語の意味をすぐ確認するためのリファレンスです。まず日常語の説明で把握し、必要なときだけ厳密な定義に進む構成とし、議論を測定と扱い方に結び付けます。WBEの議論は言葉のズレで混乱しやすいため、ここでは実際にどう測って扱うかを重視します。

コア概念

用語 Mind-Uploadでの意味(ざっくり)
マインドアップロード 「意識や記憶をデジタルに移す」一般呼称。Mind-Uploadでは主張レベルをクレーム階段で分けて扱う。
WBE(Whole Brain Emulation) 脳の機能を別基盤で再現すること。何を再現したら“成功”かは定義依存なので、先に評価を固定する。
クレーム階段(L0〜L5) 成果の言い方を揃える枠組み。L1(デコーディング)をL4(本人性)と混同しないためのガードレール。
検証基盤(Verification Commons) 標準・データ・評価・登録・監査をまとめて提供し、「比較可能な前進」を積み上げる公共財。

Decode と Emulate

用語 違い
デコーディング(Decoding) 観測された信号から、状態・刺激・文章などを予測する(相関ベースになりやすい)。
エミュレーション(Emulation) 内部状態が時間発展し、介入に反応し、将来の出力を生成する(因果・生成の要求が強い)。
反事実(Counterfactual) 「もし条件Xを変えたら?」という分岐に対する予測。decode→emulateのギャップを埋める検証の中心。

意識理論(Theories of Consciousness)

用語 Mind-Uploadでの意味
IIT(統合情報理論) 意識を「統合された情報量(Φ)」で測る理論。IIT 4.0(Albantakis et al., 2023)では公理系を刷新し、Φ構造(cause-effect structure)で意識を特定する。WBEでは因果構造の保存要件に直結する。
GNWT(グローバル神経ワークスペース理論) 情報が前頭-頭頂ネットワークで「イグニッション」し広域共有されることで意識が成立するとする理論。IITとの実験的対立はCogitate Consortium(2025)で検証された。
FEP(自由エネルギー原理) 生物が環境との境界を維持するために、感覚入力の「驚き」を最小化するという包括的枠組み(Friston, 2010)。WBEでは実装原理として採用。
能動的推論(Active Inference) FEPの行動側面。環境を能動的に変えて予測誤差を最小化する。エミュレータの自律性の基盤。
PCI / PCI-ST(摂動複雑性指標) TMS刺激に対するEEG応答の複雑性で意識レベルを定量する。理論に依存しない経験的指標としてWBEの検証基盤に位置づける(Casali et al., 2013)。
マルコフブランケット(Markov Blanket) システムと環境の統計的境界。FEPにおける「自己」の定義に使われるが、意識の境界への適用には批判もある(Bruineberg et al., 2022)。
Unfolding Argument 任意のリカレントネットワークは機能的に等価なフィードフォワード網で置換でき、IITではΦ=0となるという批判(Doerig et al., 2019)。WBEでは因果構造保存の必要性を支持する論拠。
HOT(高次理論) 意識は一次表象に対する高次の表象(「自分が知覚していることを知っている」)によって成立するとする理論群。

計測(Measurement)

用語 メモ
EEG 頭皮上の電位差を高時間分解能で測る。空間分解能は弱いので不確実性の扱いが重要。
MEG 磁場を測る。EEGとは異なる感度分布で補完関係があるが、装置は高価。
fMRI 血流(BOLD)を測る。空間分解能は良いが時間分解能は遅い。
ECoG / 侵襲計測 因果介入や高SNRの可能性がある一方、倫理・適用範囲の制約が大きい。
QC(Quality Control) インピーダンス、ノイズ、欠損、アーティファクトなどを定量化し、ログとして残すこと。

実装基盤(Implementation)

用語 Mind-Uploadでの意味
ニューロモルフィック・ハードウェア 生物学的ニューロンの動態を電子回路で模倣する専用チップ(Intel Loihi 2, SpiNNaker 2等)。IITの因果構造要件への対応候補。
Slow Continuous Mind Uploading 一括コピーではなく、生体脳とデジタル基盤を段階的に統合する移行戦略(Clowes, 2021)。本人性保存の工学的アプローチ。
コネクトーム(Connectome) 脳内の神経結合の完全地図。ショウジョウバエ全脳コネクトーム(FlyWire, Dorkenwald et al., 2024)が完成し、マウス脳が次の目標。
NMM(Neural Mass Model) 大規模ニューロン群の平均活動を記述するモデル。DCMの基盤となり、E/Iバランスの推定に使用。
E/Iバランス(興奮/抑制バランス) 神経回路の興奮性と抑制性の動的均衡。意識の質やレベルの変化に関与する。

モデル化(Modeling)

用語 Mind-Uploadでの使いどころ
逆問題(Inverse Problem) 観測(頭皮EEG)から原因(脳内活動)を推定する問題。一般に解が一意に定まらない。
ESI(EEG Source Imaging) 逆問題を解いて、脳内ソースを推定する。推定値だけでなく“不確実性”も一緒に扱うのが重要。
DCM 神経回路モデルを仮定し、結合を推定する枠組みの一種。介入設計と相性が良い。
SCM(構造的因果モデル) 因果関係を明示するモデル。反事実や介入予測を定義しやすい。

標準化・再現性(Open Science)

用語 意味
BIDS / EEG-BIDS 神経計測データの整理規約。共有と再現の“最初の壁”を下げる。
ベンチマーク タスク・データ・指標を固定して比較可能にする仕組み。
ベースライン 比較の出発点。改善を主張するならベースラインとの差分が必要。
事前登録(Preregistration) “やる前”に計画を固定し、探索と検証を区別する。報告バイアスを減らす。
モデルカード スコアだけでなく、学習データ、計算資源、既知の弱点、失敗例を公開するフォーマット。

参考文献(用語定義)

  1. Michel, C. M., & Brunet, D. (2019). EEG source imaging review. doi:10.3389/fneur.2019.00325
  2. Wipf, D., & Nagarajan, S. (2009). Unified Bayesian framework for MEG/EEG source imaging. doi:10.1016/j.neuroimage.2008.02.059
  3. Friston, K. J., Harrison, L., & Penny, W. (2003). Dynamic causal modelling. doi:10.1016/S1053-8119(03)00202-7
  4. Vinck, M., et al. (2011). Weighted Phase Lag Index (wPLI). doi:10.1016/j.neuroimage.2011.01.055
  5. Staniek, M., & Lehnertz, K. (2008). Symbolic Transfer Entropy. doi:10.1103/PhysRevLett.100.158101
  6. Gorgolewski, K. J., et al. (2016). BIDS. doi:10.1038/sdata.2016.44
  7. Pernet, C. R., et al. (2019). EEG-BIDS. doi:10.1038/s41597-019-0104-8
  8. Albantakis, L., et al. (2023). Integrated Information Theory (IIT) 4.0. doi:10.1371/journal.pcbi.1011465
  9. Friston, K. (2010). The free-energy principle. doi:10.1038/nrn2787
  10. Casali, A. G., et al. (2013). PCI. doi:10.1126/scitranslmed.3006294
  11. Doerig, A., et al. (2019). Unfolding Argument. doi:10.1016/j.concog.2019.04.002
  12. Tononi, G., et al. (2016). IIT: from the phenomenology to the mechanisms of consciousness. doi:10.1038/nrn.2016.44